十二
「それはないが――御老人の書かれるものも、そういう心配はありますまい。」
「いや、大いにありますよ。」
馬琴は
「改名主などいうものは、
崋山は馬琴の
「それは大きにそういうところもありましょう。しかし改作させられても、それは御老人の恥辱になるわけではありますまい。
「それにしても、ちと横暴すぎることが多いのでね。そうそう一度などは獄屋へ衣食を送る
馬琴自身もこう言いながら、崋山といっしょに、くすくす笑い出した。
「しかしこの後五十年か百年たったら、改名主の方はいなくなって、八犬伝だけが残ることになりましょう。」
「八犬伝が残るにしろ、残らないにしろ、改名主の方は、存外いつまでもいそうな気がしますよ。」
「そうですかな。私にはそうも思われませんが。」
「いや、改名主はいなくなっても、改名主のような人間は、いつの世にも絶えたことはありません。
「御老人は、このごろ心細いことばかり言われますな。」
「私が心細いのではない。改名主どものはびこる世の中が、心細いのです。」
「では、ますます働かれたらいいでしょう。」
「とにかく、それよりほかはないようですな。」
「そこでまた、御同様に討死ですか。」
今度は二人とも笑わなかった。笑わなかったばかりではない。馬琴はちょいと顔をかたくして、崋山を見た。それほど崋山のこの冗談のような
「しかしまず若い者は、生きのこる分別をすることです。討死はいつでも出来ますからな。」
ほどを