下 李小二は、陶朱(とうしゅ)の富を得た。偶(たまたま)、その仙人に遇ったと云う事を疑う者があれば、彼は、その時、老人に書いて貰った、四句の語を出して示すのである。この話を、久しい以前に、何かの本で見た作者は、遺憾ながら、それを、文字通りに記憶していない。そこで、大意を支那のものを翻訳したらしい日本文で書いて、この話の完(おわ)りに附して置こうと思う。但し、これは、李小二が、何故、仙にして、乞丐(きっかい)をして歩くかと云う事を訊ねた、答なのだそうである。 「人生苦あり、以て楽むべし。人間死するあり、以て生くるを知る。死苦共に脱し得て甚だ、無聊(ぶりょう)なり。仙人は若(し)かず、凡人の死苦あるに。」 恐らく、仙人は、人間の生活がなつかしくなって、わざわざ、苦しい事を、探してあるいていたのであろう。 (大正四年七月二十三日)